ユービック/フィリップ・K・ディック、浅倉久志(訳)
2015年01月26日 00:00
『境界の曖昧さを恐怖で描く物語』
「ユービック/フィリップ・K・ディック、浅倉久志(訳)」(ハヤカワ文庫)
冷凍保存された「半生状態」の死者と交信することのできる世界。
物語は、超能力者集団を率いるホリス異能プロダクションと、 異能現象を中和させることのできる不活性者集団を率いるランシター合作社の対立で始まる。
ある日、 ランシター合作社の経営責任者であるグレン・ランシターのもとに、自社に潜む超能力者を一掃してくれという依頼が入る。
大規模な案件であるため、グレン・ランシターは右腕のジョー・チップに不活性者を選抜を託す。
そして、厳選された不活性者11人、ジョー・チップ、グレン・ランシターの一行は依頼の地「ルナ」へ旅立ち、そこで依頼主であるスタントン・ミックに出会う。
しかし、その現場からは、超能力者の存在を表す磁場が検出されない。
するとその直後、スタントン・ミックと思われた、目の前の「自爆型のヒューマノイド爆弾」が炸裂。
そう、これは有能な不活性者を一掃しようとした、ホリスの罠だったのである。
この爆発でグレン・ランシターは絶命の危機にさらされるが、不活性者およびジョー・チップの懸命の逃走劇の末、冷凍保存で一命を取り留めたまま地球へと帰還することとなった。
「半生状態」になったグレン・ランシターであったが、ジョー・チップが何度も交信を試すものの、なぜか繋がることができない。
ランシター合作社の経営を引き継ぐ立場にあったジョー・チップは途方に暮れることになるが、『異変』はここから始まる。
通貨価値の崩壊、すさまじい速度で進む物質の劣化、時間(あるいは時代)の退行、そして不活性者の変死...。
異変にまみれた奇妙な世界で、ジョー・チップは何を見ることになるのか。そしてタイトルでもある『ユービック』の正体とは!?
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フィリップ・K・ディックの真髄である「境界のあいまいさ」が、これでもかとばかりに描写された作品です。
「生と死の境界」「現実と仮想の境界」「退行と進行の境界」「虚構と事実の境界」...。
私たちの実生活においても、一体どれだけのモノを『実体』として受け止めているのだろうか、と考えさせられる内容でした。
目の前のモノを『実体』として手にしたいとき、私たちにも『ユービック』が必要になるのかもしれません。
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